
商社時代、私は中東のヨルダンをはじめとする、海外の国々に出張する機会がありました。
現地の人の悩みを聞いてみると「砂しかないんだ」と言います。
「道路」がないんです。
しかし、道路を通してみると、次は「上水道」がない、「下水道」がない、「インフラ」がない。
インフラを整えても、次は「人がいないんだ」と、困ったスパイラルが止まりません。
道路がなければ、収穫物を運べない。
電力が安定しなければ、加工も保存もできない。
上水道や下水道がなければ、衛生的な食品生産は難しい。
通信環境がなければ、価格情報も、市場の動きも分からない。
一方で、日本はどうでしょうか。
日本には、山があります。
海があります。
平地もあります。
そして、
道路があり、橋があり、水があり、電気があり、通信があります。
これは、決して当たり前のことではありません。
世界を見れば、極めて恵まれた条件です。
農業においても同じです。
日本の農業は、「土地が狭い」「効率が悪い」と言われることがあります。
確かに、大規模農業で海外と同じ土俵で戦うのは、簡単ではありません。
しかし、日本には「加工できる力」があり、「品質を保つ技術」があり、「安定して運ぶインフラ」があります。
つまり、
付加価値を生む条件は、すでにそろっているのです。
問題は、その強みを、
十分に活かしきれていないことだと私は考えています。
農業は、付加価値で変えられる
私は商社で働いておりましたが、
振り返ってみると、携わっていた仕事は一貫して農業と食品でした。
これは本当に偶然なのですが、結果として、長く現場を見続けることになりました。
北海道や鹿児島をはじめ、さまざまな地域の農業の現場を回り、さらに実際に畑に入り、農家の皆さんの話を聞いてきました。
スーパーマーケット1000店舗を巡りました。
そこで、はっきりとした違いを感じました。
北海道などの大規模農業の地域では、
「これは息子に継がせたい」
「しっかり儲かるから、次の世代につなげられる」
そういう声を、何度も聞きました。
一方で、本州の土地が狭く、山が多い地域では、
どうしても生産量が上がらない。
収穫量も限られる。
その結果、農業がだんだんと先細っていく。
そうした現実も、数多く見てきました。
そうした中で、私が強く印象に残っているのが、
群馬県のこんにゃくです。
群馬では、こんにゃく芋を作り、それを加工し、商品にしていく取り組みが行われていました。
私は新入社員のころから、「こんにゃくゼリー」の流通に関わっていました。
当時は、正直な反応ばかりでした。
「こんなゼリー、食べんじゃろ」
「誰が買うんだ」
そう言われ続けていました。
しかし、時間をかけて改良を重ね、健康食品としての価値が認識され、
今では“太りにくい商品”として、全国で広く流通しています。
この経験から、私は一つ、確信を持っています。
農業は、生産量だけで勝負するものではない。
付加価値を高めることで、
可能性は大きく広がる。
ただし、それは一朝一夕ではできません。
時間をかけ、試行錯誤し、現場と一緒に育てていく必要があります。
広島にも、同じことが言えると思っています。
広島の人にとっては、それが毎日の風景であり、日常かもしれません。
畑も、山も、海も、「当たり前」の存在かもしれません。
しかし、外から来た人にとっては、それが大きな価値になることがあります。
日常の中にあるからこそ、気づきにくい。
でも、だからこそ、まだ伸ばせる余地がある。
私は、広島には、そうした「磨かれていない原石」がたくさんあると感じています。
一緒に現場に入り、一緒につくる
行政が、
「この作物がいい」
「この商品をやろう」
と、上から決めるだけでは、うまくいきません。
答えは、現場にあります。
一緒に畑に入る。
一緒に山を登る。
一緒に汗をかきながら、話をする。
その中で初めて、
「これはいけるのではないか」
「こうすれば付加価値が出るのではないか」
そうした発想が生まれてきます。
私は、現場に入らずに、結論を出す政治はしたくありません。
広島の皆さんと一緒に、考え、つくり、育てていく。
農業も、観光も、地域の産業も、一緒につくっていく。
その覚悟で、私はこの挑戦をしています。
山本しん


